心臓を栄養する血管である「冠動脈」の「狭窄」(細いこと)や、慢性的な「閉塞」により、心臓に十分な栄養や酸素が行きわたらなくなり、胸痛をはじめとする多様な胸部症状が出現する疾患です。
「冠動脈」の「動脈硬化」により、冠動脈が狭窄・閉塞して発生します。「動脈硬化」とは、動脈の壁にコレステロールなどが蓄積して、血管壁が固く厚くなるとともに、血管の内腔が細くなっていく現象で、もともと年齢とともに進行するものです(血管の老化でもあり、従って高齢者に多くなります)。しかし、最近はライフスタイルの欧米化によって、脂肪分の多い食事を摂取したり、運動不足になったりしているため、比較的若年者でも食生活が悪かったり運動不足で肥満になったりすると、動脈硬化が著しく進行し、狭心症を発症することもあります。高齢化や、高脂肪食、運動不足といった生活習慣を背景に、狭心症の患者は増加しています。
冠動脈が狭窄を起こしても軽症のうちは症状がないため気が付かないことが多いですが、狭窄が進行してくると、階段や坂道を登るなどの労作時に胸痛や息苦しさといった胸部症状が出現してきます。体を動かすと、全身の筋肉にたくさん酸素や栄養を送る必要があるため、全身へ血液を送るポンプである心臓はより多くの仕事をすることになりますが、心臓が多くの仕事をするためには、より多くの心臓自体への酸素や栄養供給が必要になります。冠動脈の狭窄が進行していくと、十分な心臓自身への酸素や栄養分の供給ができなくなるため、心臓が酸素不足になって、狭心症の症状が出現してきます。最初のうちは、体を休めると心臓の負担が減るた め症状が回復してきますが、動脈硬化がさらに進行すると、急に冠動脈が閉塞して突然冷汗を伴うような激しい胸痛で発症し、安静にしても症状が取れない「急性心筋梗塞」を起こすこともあります。こうなると、閉塞した冠動脈を広げない限り症状は取れません。
なお、狭心症や心筋梗塞のように、冠動脈の血流が低下して心臓が血液不足に陥る疾患を総称して「虚血性心疾患」と呼びます。
脂肪分の多い食生活を続けていると、血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が増加し、血管に直接蓄積することにより、動脈硬化は進行し、やがて冠動脈が狭窄や閉塞を起こし、狭心症を発症します。この他、中性脂肪が高かったり、善玉コレステロール(HDLコレステロール)が低かったりしても、動脈硬化は進行していきます。また、高血圧や糖尿病、喫煙も強力な動脈硬化の促進因子です。これらを動脈硬化の「危険因子」(リスクファクター)と呼びます。メタボリック症候群(いわゆる「メタボ」)は、内臓脂肪が蓄積するとともに、このような「危険因子」が集積し、狭心症などの動脈硬化性疾患が発症しやすくなる危険な状態です。
典型的には「労作時の胸痛」です。坂道を登ったり、階段を登ったりすると、だんだん胸が苦しくなり、前胸部が圧迫されたり絞られるような痛みを感じます。これらは運動をやめるとゆっくりと消失していきます。
症状の感じ方は人それぞれです。胸痛ではなく、労作時の「動悸」と感じる人もいますし、「息苦しい(心臓のポンプ機能が低下する結果、肺にうっ血を起こして呼吸困難の症状が出ます)」という症状が出る場合もあります。前胸部痛だけではなく、同時に肩や背部(肩甲骨部)、下顎に痛みを感じる場合もあります(「放散痛」といいます)ので、注意が必要です。また、糖尿病の患者では、痛みを感じる神経が糖尿病性の神経障害のため麻痺してしまい、狭心症なのに自覚症状を感じない「無痛性」の狭心症となる場合もあります。
外来で行われるより簡便な検査と、入院で実施する「カテーテル検査」(冠動脈造影検査)とに分けられます。外来で実施される検査は、以下の通りです。いずれの検査も当院で実施できます。
(1)心電図検査
狭心症の患者は、安静時には症状がないことが多いため、安静時の心電図は異常がないことが多く、安静時心電図では正しい診断ができないことが多いです。そこで、運動負荷をかけて「虚血」を誘発することで診断をします。運動負荷の方法には大きく分けて、マスター二階段負荷(階段の昇降を繰り返す)、エルゴメータ負荷(自転車漕ぎ)、トレッドミル負荷(ベルトコンベアの上を歩いたり走ったりする)があります。
(2)心エコー図検査
心臓に超音波を当てて、心臓の動き具合や心臓の大きさ、形などを評価し、心臓の機能を診ます。
(3)ホルタ―型心電図検査(24時間心電図検査)
24時間型心電図を装着して過ごして頂き、1日分の心電図波形を記録して、胸部の自覚症状が出現した時に、同時に心電図の変化が記録されるかどうかを判断します。心電図変化と自覚症状が一致して出現すれば、狭心症である可能性が高くなります。
(4)冠動脈CT検査
CT装置(体を輪切りにする画像診断装置)を用いて、心臓の輪切り撮影を行い、冠動脈の狭窄があるかどうかを判断する検査です。血管を映し出すために、造影剤というレントゲンで写る薬を注射しながら実施します。
(5)心筋シンチグラフィ検査
心臓に集まるアイソトープと呼ばれる薬剤を注射し、集まり具合の写真撮影をおこなって、心臓への血流を評価します。狭窄のある血管が流れている部分では、アイソトープが少なくなるため、心臓の血流が視覚的に判断できます。注射の際、運動負荷(上記(1)参照)をかけたり、血管拡張薬を注射したりして実施します。
以上の検査で異常が出た場合、最終診断として「カテーテル検査」が実施されることになりますが、問診で狭心症の存在が確定的である場合や、症状の進行が急速で緊急性があると判断される場合は、外来検査を実施せずに、緊急的に「カテーテル検査」を実施することになります。
主に手首の動脈から、「カテーテル」と呼ばれる細い管を挿入し、心臓付近まで先端をすすめて、冠動脈の入口部に先端を挿入し、造影剤を直接冠動脈に注入して、直接冠動脈の写真を撮影するものです。狭心症の最終検査で、確定診断ができます。検査だけであれば所要時間は10分~20分と短時間で終了しますが、動脈を穿刺(管を入れるために刺すこと)する必要があり、管を抜いた後は再出血しないようしっかり圧迫止血する必要がありますので、短期間であっても入院が必要となります。通常は2泊3日の入院検査としています。かつては鼠径部(大腿の付け根)の動脈を穿刺していたため、検査後は一晩の安静が必要でしたが、最近は手首の付け根や肘の動脈を穿刺するようになっていますので、検査後の安静も短時間で済みます。検査中にもし高度の狭窄病変が確認された場合は、現場の判断で下記の「冠動脈形成術」(カテーテル治療)を緊急的に実施することもあります。当院では豊富な実績がある検査法です。
なお、動脈硬化は心臓に限らず、全身の動脈に発生するものですので、冠動脈の動脈硬化がある場合には、他の動脈硬化がないかどうかも同時に調べています。特に脳梗塞と関連する「頸動脈」や、足の血管の動脈硬化(下肢閉塞性動脈硬化症、と呼びます)は重要です。
内科的治療(薬物療法)と、カテーテル治療(冠動脈形成術)に大別されます。 内科的治療は、血管拡張薬(いわゆるニトログリセリン系の薬物)や、抗血小板薬(血小板が集まって血栓を作り、血管が閉塞するのを予防する薬剤、いわゆる「血液サラサラ」薬です)を使用して、狭心症の症状を緩和したり、症状を予防したりするものです。急な症状を緩和するために、ニトログリセリンの舌下錠(ニトロペン)やスプレー製剤(ミオコールスプレー)を使用することもあります。ただし、これらの薬物療法は、高度狭窄があった場合は効果が十分ではなく、限界もあります。
カテーテル治療(冠動脈形成術)は、狭窄部に風船を当てて拡張したり(風船治療)、ステントと呼ばれる金属の筒を留置して拡張したり(ステント治療)することで、冠動脈の狭窄を解除し、狭心症の症状を改善する治療法です。カテーテル検査と同じ要領で実施できます。当院にはカテーテル治療の専門医(学会認定医)2名在籍しており、安全かつ確実な治療が可能で、当院でも豊富な実績のある治療法です。動脈を穿刺する必要がありますので、やはり短期間とはいえ入院を必要とします。
ただ、非常に動脈硬化性変化が高度で、カテーテル治療もできないような重症の症例に対しては、カテーテル治療ではなく冠動脈バイパス手術(外科治療)を選択せざるを得ない場合もあります。治療方針の選択にあたっては、最終的には「カテーテル検査」(冠動脈造影検査)の結果をふまえて決定することになります。
狭心症は「心筋梗塞」の前段階でもあり、放置すれば心筋梗塞から突然死をきたしたり、重大な転帰をとったりすることもあります。また、動脈硬化は全身性の疾患であり、心筋梗塞に限らず、脳梗塞を起こしたり、下肢閉塞性動脈硬化合併のため下肢を切断したり、といった重症な病態を合併したりすることもあります。いずれにしても、早期に発見し、初期に適切な治療をおこなうことが重要です。
まずは動脈硬化を起こしにくい適切な生活習慣が重要です。食生活の見直し(高脂肪食をやめる、間食や夜食をやめる、等)、適切な運動習慣、禁煙、等が重要と考えられます。また、高LDLコレステロール血症や高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症、あるいは糖尿病や高血圧症といった「危険因子」を十分にコントロールすることが重要です。
このような「危険因子」は一般的に「生活習慣病」でもあり、定期健康診断でも検査できるものですので、毎年必ず健康診断を受ける、健康診断で異常値が出た場合は放置せず必ず医師に相談して適切に管理してもらう、等の対策をとり、狭心症に限らず動脈硬化性疾患の発症予防をおこなうことが重要です。