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2023.11.09

川崎病院におけるプライマリ・ケアの使命(後編)

医療法人川崎病院は、神戸市兵庫区に位置する278床の中規模急性期病院です。200床以上の急性期病院で在宅医療を行う施設は全国的にも珍しい中、2021年から訪問診療を開始しました。この活動を通じて、中規模急性期病院が訪問診療を提供することの重要性と使命について、内科・総合診療科(家庭医療専門医・在宅専門医)の松島和樹先生に話を伺いました。後編は、がん患者さんにおける外来から在宅医療、緩和ケアまでをお話いただきました。

がん患者さんの外来から在宅までの医療

外来、病棟、在宅と、継続的な診療体制

川崎病院では、がんの手術を受けた患者さんには、必要に応じて当院での化学療法も提供しており、放射線治療が必要な場合には地域の病院と連携して対応しています。また、治療が終わった後も、外来診療から最期の緩和ケア、在宅診療まで、川崎病院での診療が可能です。そのため、患者さんの選択肢が広がり、安心感を与えられているな、と肌で感じているところです。

最近では、手術を受けられてからも継続して治療を頑張っておられる患者さんのサポートのための訪問診療を川崎病院に依頼されるケースも増えています。また抗がん剤治療も終了し、BSC(ベスト・サポーティブ・ケア)*1になったため外来で通院している患者さんがいよいよ通えない状況になったときも、在宅ケアに移行します。

外来、病棟、在宅と、継続的な診療体制で診ていけるため、患者さんやご家族だけでなく、私たちも最後までやり切れたと感じられます。

最期の気持ちに応えるための、患者さんとご家族の選択肢

「病院にいたい」「家に帰りたい」どちらにも対応できる

在宅診療にはいくつかのパターンがあります。1つ目は、外来にずっと通院していたけれど、病院に行けなくなった人です。外来診療の延長のような感じで、月に1、2回のペースで定期的に診察し、時々検査をして薬を出して、健康状態を診ていくというのがメインです。

2つ目は、入院診療の延長です。入院していて物を食べられなくなり、点滴して酸素も吸っていたけれど、やはり家で過ごしたいという方を、酸素や点滴をつけたまま、家でケアを続けていくケースがあります。

私たちが力を入れるべきなのは、2つ目のケースだと思っています。病院に入院するのは非日常に飛び込むということなので、患者さんにとってもいろいろなストレスがかかり、せん妄や院内感染症を起こすリスクがあり、必ずしも安全な状況ではないのです。その上で、「病院にいたい」という人は病院にいてもいいと思いますし、いたくないという人もいるので、「家に帰りたい」という選択肢を叶える手段を持っていることは私たちの強みだと思います。家にいたい思いを叶えるために、さまざまな知恵を絞って取り組んでいるのが、今の在宅診療です。

正解がない、人生最期の選択

在宅でできることはたくさんあります。在宅酸素も使えるし、人工呼吸器をつけることも不可能ではありません。点滴も超音波検査もできます。できないのはCTと内視鏡ぐらいです。新しく出てくるデバイスなども使いながら、家でより良く過ごしてもらえるように頑張っています。

生死に関わる判断の難しい症例を検討するためのフレームワーク「臨床倫理の4分割表(医学的適応、患者の意向、QOL〔Quality Of Life:生活の質〕、周囲の状況)」に沿って検討した場合、医療的安全性や余命の延長という要素を重視するなら病院にいる方がよいことが多いです。しかし、本人のQOLの向上を考慮した上で、「家に帰りたい」という本人の思いが強く、家にいることの価値が高いと判断すれば、たとえ余命が短くなるとしても家に帰ることは間違いではないと考えます。人生の最期をどう選択するかに、正解はありません。

在宅で看取りができない患者さんはいない

可能な限り本人の願いに寄り添えるように

家に帰れない患者さんは存在しません。私たちは、どのような手段でその患者さんの思いを叶えるかを考え、たとえ数時間でも帰りたければ帰してあげるという気持ちで取り組んでいます。

ご家族の生活などの現状もありますし、すべて叶えることは難しい場合もあります。ですが、できるだけ本人の願いに寄り添えるように努力はします。家族間の話し合いに少し助け舟を出すこともあります。

川崎病院で最期まで診ます

川崎病院に入院しながら緩和ケアを受けている間に、「最期は家族で看取ってあげよう」という覚悟が家族にできたときは、病院側も訪問診療をするなど希望に沿って全力で対応できます。家族がおられない方でも、「最期まで家で過ごしたい」という場合はご自宅で診ていきます。ほかの病院ではなかなか叶えられないニーズにも応えていきます。

在宅や緩和ケアの要望は、あらゆる診療科からまんべんなくあります。将来的に病院に通えなくなっても、川崎病院で最期まで診ます。私たちは、地域の人たちの身体や心のつらさを癒す人、寄り添う存在でありたいと考えています。

  • 1)BSC(ベスト・サポーティブ・ケア):がんに対する抗がん剤などの積極的な治療は行わず、症状などを和らげる治療に徹すること

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プロフィール

松島 和樹 家庭医

2011年神戸大学卒。神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を修了し、福岡県の飯塚・頴田家庭医療プログラムで後期研修を行う。2016年に家庭医療専門医を取得。関西家庭医療学センター/金井病院 家庭医療センター長を経て、2021年から医療法人川崎病院総合診療科医長。2023年11月からは、新設した「在宅医療センター」のセンター長を務める。

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